誤嚥性肺炎は、誤って食物や液体が気道に入ることによって引き起こされる肺炎の一種です。入院した高齢患者の肺炎の種類を調べたデータによると、80歳代の肺炎患者の約8割、90歳以上では9.5割以上が誤嚥性肺炎であったと報告されています。後期高齢者の肺炎の多くは誤嚥性肺炎であり、予防方法や対策で少しでもリスクを低下させるよう取り組みが望まれます。
そして頸部ストレッチは、誤嚥性肺炎の予防において重要な役割を果たすことがあります。頸部は首や喉のエリアであり、正しい姿勢と適切な筋力を保つことが誤嚥予防につながるからです。
以下に頸部ストレッチの重要性についていくつかのポイントを挙げます。
ストレッチの重要性
◎. 嚥下機能の改善: 頸部の筋肉や関節の柔軟性を高めることによって、嚥下(飲み込み)機能を改善することができます。頸部のストレッチは、喉や食道の適切な機能を維持するために重要です。
◎. 姿勢の矯正: 頸部の筋肉が強化され、柔軟性が向上すると、正しい姿勢を保つことができます。良好な姿勢は、食事や摂取中に気道を適切に保ち、誤嚥を予防するのに役立ちます。
◎. 緊張緩和: 頸部は日常的な緊張やストレスの影響を受けやすい場所です。頸部のストレッチは、筋肉の緊張を緩和し、緊張による嚥下機能の障害を軽減するのに役立ちます。
◎. 血液循環の促進: 頸部のストレッチによって、血液の循環が改善されます。良好な血液循環は、組織への酸素や栄養の供給を向上させ、頸部の健康を維持するのに役立ちます。
頸部ストレッチは、喉や食道の筋肉や関節の柔軟性を向上させ、正しい姿勢を保ち、緊張を緩和することで誤嚥性肺炎の予防に寄与します
飲み込みに重要な筋肉
嚥下に関する筋肉は
・舌骨上筋群(オトガイ舌骨筋、顎舌骨筋、顎二腹筋、茎突舌骨筋)
・舌骨下筋群(甲状舌骨筋・胸骨舌骨筋・肩甲舌骨筋・胸骨甲状筋)
があります。
舌骨上筋群が舌骨を上に持ち上げるのに対し、舌骨下筋群は舌骨を下に下げる作用があります。舌骨下筋群は舌骨を下に引くことで、舌骨のある程度の安定性を提供していると考えられます。舌骨下筋群が短縮したり、硬くなることで舌骨上筋群の作用を邪魔してしまいます。舌骨上筋群の筋力トレーニングを中心に考えがちですが、舌骨上筋群だけではなく、必ず舌骨下筋群をチェックすることも嚥下機能の評価をする上では大切です。
肩甲舌骨筋と胸鎖乳突筋
舌骨下筋群の中に肩甲舌骨筋があります。肩甲舌骨筋は舌骨と肩甲骨との間を中間腱をはさみつつ上腹・下腹に分かれており、下側に弓なりになっている筋肉です。胸鎖乳突筋は耳の後ろ部分から鎖骨の内側にかけてつながっている太い筋肉です。
・肩甲舌骨筋
起始:肩甲骨上縁下腹~鳥口突起内側
停止:舌骨体
・胸鎖乳突筋
起始:胸骨頭(胸骨柄上縁)、鎖骨頭(鎖骨内方1/3)
停止:側頭骨乳様突起、後頭骨上頂線
肩甲舌骨筋は肩甲骨と連結をしているので肩甲骨の位置の変化によって舌骨の位置が影響をうけます。胸鎖乳突筋が固まると、鎖骨と肩甲骨が固まります。そうなれば、肩甲骨と舌骨の間が固まります。また、胸鎖乳突筋は側頭骨とつながっています。胸鎖乳突筋の影響によって後頭骨の位置・向きが変わるいうことは、側頭骨に影響を及ぼし、それが下顎へ影響を及ぼすため、顎関節の問題も考える必要があります。
誤嚥性肺炎予防のポイント
◎. 食事の注意:食事をゆっくりと噛み、飲み物を小口で摂取しましょう。食べ物を十分に咀嚼することで、誤嚥のリスクを減らすことができます。
◎. 姿勢の管理:食事中は座った状態を保ち、頭を少し上げた姿勢をキープしましょう。正しい姿勢を保つことで、食物や液体が誤嚥しにくくなります。
◎. 食物の調整:硬い食べ物や大きな塊を避け、柔らかい食材や小さな切り口にすることで誤嚥のリスクを減らします。
◎. 歯や口腔のケア:口腔の健康を維持するために、歯磨きや口腔ケアを定期的に行いましょう。感染症や歯周病を予防することが重要です。
◎. 下咽頭機能訓練:下咽頭の筋力や調整能力を向上させるために、下咽頭機能訓練を行うことがあります。医師や言語聴覚士の指導のもとで行いましょう。
◎. 環境の整備:食事を摂る場所や食事のサポートを提供する環境を整えることも重要です。必要に応じて食事の支援具や適切な食事の提供方法を利用しましょう。
◎. 医師や専門家の相談:個人の状況やリスクに応じて、医師や専門家に相談して適切な予防策を確認しましょう。特に高齢者や基礎疾患を持つ人は、定期的な評価とケアが重要です。
これらのポイントを意識することで、誤嚥性肺炎のリスクを軽減できます。個々の状況に合わせて、予防策を適切に実施しましょう。